意趣返し。
ネットの世界はいつも移ろい易く、儚いものだと思っているが。
ちょっと検索するだけで、昔好きだった人のブログに当たったりする事は。
永続性と刹那性を併せ持つ仮想空間に一種の矛盾を感じる。
だって11年前のブログが未だに読めるとは。
ちょっとびっくりなんだよ。
私、眠れない時に目を疲れさそうと懸命に文字を読む悪癖は直らずなので。
数年分ある彼のブログを最初から読んでみる。
懐かしい文体。
表現がやたら回りくどく、ワンセンテンスがだらだら長い文。
独特な漢字の使い方の癖もそのまま。
文が長過ぎて、最終的に意味が掴みにくい欠点も変化無し。
そのブログは、写真でも本文でも彼以外の人物はほぼ登場しない。
完全なる備忘録のような、自己中の極みの人のような。
昔と違うのは直筆かどうかという箇所ぐらいか。
まだ携帯メールが一般化する前で、今日ではあり得ないぐらい頻繁に手紙のやりとりをしていた人なので。
今でもすぐあの個性的な手書きの文字と、ブルーブラックのインクが思い浮かぶ。
思い出すのはどれもこれも、嫌な思い出ばかりなのに。
なぜ必死に過去の情人のブログを読んでるのか。
しかももう本人はそこにいないブログなのに。
ああ更新は昨年で途絶えているからね。
謂わば彼の残り香。
又は彼の抜け殻。
或いは彼の墓場。
その後は確かに表舞台での姿を見ていないし。
今もあの仕事をしてるのかは解らない。
多分私、まだ彼の自宅に迷わずに行けるが。
あの頃住んでいた建物も築年数を考えれば、残っているとは思えない。
いやいや結婚などしていれば間違いなく引っ越しているだろう。
蝸牛が這ったように彼の人生の痕跡は歴然とあるのに、現実にはどうしているか解らない。
この画面の中に、血肉を持った生身の彼は居ない。
ネット界は遠くて近い。
いや近くて遠い。
彼の欠片が散らばるネットの世界は、甘くて苦く。
忽然と現れて、唖然としてる間にその存在は消える。
彼の幸せは未だ祈れない。
私が愛した分に見合う愛は無かったからだ。
もっともっと愛されたかったのに。
現実は最初から最後まで不等号の日々だった。
いつも遠くの彼女が一番。
目の前の私が二番。
別れたら私は永遠に、二番の控えでサブでベンチウォーマーで。
一番になれる事はもう未来永劫無い。
それを思うと、今でも心臓が痛くなって呼吸が乱れる。
いや、とっくに結婚して無難に子供がいたりして?
考えただけで血液が沸騰するわ。
異常な執着?
惨めな補欠故の未練?
ああ端的に言うなら、今だって未練たらたらだよ。
だけど。
それのどこが悪い?
もし引っ越しの時に、あの時の指輪が見つかってたら。
2秒ぐらいは私の事を思ってくれたろうか。
だったら。
ちょっとだけ溜飲が下がる。
性格悪い?
言われなくても解ってるよ。
やっぱり最後は泥沼の大喧嘩で、前代未聞の罵り合いが一番好い。
未練や後悔や甘い期待や、寄せては返す絶望感や。
こびり付いたちょっとの愛情を持って生きるのはなによりも辛いから。