真綿の海。
Sの人というか、主の持って生まれた大事な条件として。
声の比重は非常に大きいと思ってる。
あんまり甲高くて落ち着きの無い声も。
低過ぎて聞き取りにくい声も向いてない。
勿論、言葉が滑らかに途切れる事なく出て来る、頭の回転の早さも必要で。
言葉責めの単語チョイスで「えっ?」と白けるようじゃ、己の主として尊敬や愛情を持てない。
だから主とは誰でもが簡単に出来るものではないと、常日頃思ってる。
その資質と技術をフル活用して、主は服従を強いるが。
時に賺し、時に煽て。
声の高さをも様々に変え。
私の全ての服従を手に入れる。
ひとつひとつ退路を絶たれ、どうしても従わざるを得ない絶望的な状況に持っていかれる時にも。
その声は、甘い悪魔の囁きにも柔らかな子守唄にも聞こえる。
「1回だけやってごらん」
「それだけやれば他に何もやれとは言わないから」
耳元で囁かれる、いかにも難易度の低いハードル。
ううん、嘘ばっかり。
ひとつ従えば次の指示が来て、それが明日も明後日も続くんだ。
でも従わなければ。
更に甘いお砂糖でコーティングした声が湧いてくる。
その甘さ過剰の声を、出来るだけ長く聞く為に。
強く強く、蹌踉ぬように必死に保った意思で。
全てをのらりくらりと断るんだ。
主に逆らって従わなければ従わない程、見せびらかされる餌は素敵になるから。
それは口説かれてるのと同じぐらい、気持ち良くて。
何度でも言われたい心蕩ける言葉。
そして何時からか忘れようと努力してきた。
身体の芯が激しく疼く言葉。
それはM女が一番愛されてると感じる、至福の時間であり。
性的に高まる時で。
瞬間は永遠となり。
永遠は瞬間となる。
私がこう言えば、貴方はこう条件を出すだろう。
そんな計算をしながら返事をする私は。
もう模範的で従順なM女じゃ無い。
お互いにどの辺りで堕ちるかもっと焦らすか、手の内が解っていながらも。
解らないフリをして楽しむ、大人の遊戯のようなもの。
その感覚の合う人は誰にも渡したくない。
たとえ肌を重ねる事が出来なくても。
たとえ伴侶を持とうとも。
生涯、主はひとり。
そう思える自分でいたい。